東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)234号 判決
事実及び理由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決の認定判断は正当であつて、原告がその取消事由として主張するところは、以下説示するとおり、理由がないものというべきである。
1 第一引用例の記載内容並びに本願考案と第一引用例記載のものとの一致点及び相違点の認定判断の誤りについて
原告は、第一引用例に記載されたつかいすておむつにあつては、その使用時にテープフアスナーとして働くのは感圧テープフアスナー16のみであること、及び感圧テープフアスナーの他端(剥離端)と剥離ライナーとの間の附着力は、たといあつても最小の粘着力の附与しかないことを根拠に、本件審決が、第一引用例に、感圧テープ16と感圧テープ16の他端18に剥離可能に附着し、他面に接着剤を有する剥離ライナー19又は26とから構成された二層の感圧接着テープが示されている旨認定判断したのは誤りであり、この認定判断を前提として、本願考案と第一引用例記載のものとの共通点及び相違点の認定判断も誤りであると主張するから、検討する。
前示本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願考案の実用新案登録願書並びに添付の明細書及び図面)、第六号証の二及び第一〇号証(いずれも手続補正書)を総合すれば、本願考案は、おむつを幼児に固定するためのテープフアスナーに関する考案であつて、おむつの隅を固定するために圧力感知接着テープを用いた固定体を用いることは周知であるが、従来のテープ式固定体では、おむつを幼児に固定するとき、感圧テープを直接裏面シートに圧着させるために、一度圧着したテープを剥がして再び圧着し直すとき(例えば排尿の有無を確かめるとき等)、裏面シートが比較的弱い材質なので、裏面シートが破損したり、粘着テープに裏面シートのけばが付いたりするため一度幼児に固定したおむつを繰り返し脱着することが困難となる欠点があつたところ、本願考案はこの従来のテープフアスナーの欠点を改良し、より使いやすいテープフアスナーを得ることを目的とし、前示本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲1記載に同じ。)のとおりの構成、すなわち、第一感圧テープ片4と第一感圧テープ片の他端部6に剥離可能に附着した第二感圧テープ片9とからなるテープフアスナーにおいて、おむつの裏面と第二感圧テープ片9との固着力を第一感圧テープ片4と第二感圧テープ片9との固着力より強くする構成を採用することによつて、一度圧着したテープを剥がして再び圧着し直すとき、裏面シートが破損したり、粘着テープに裏面シートのけばが付いて再固着が妨げられることがない作用効果を奏するものであることを認めることができる。他方、成立に争いのない甲第三号証(英国特許第一三〇四九九四号明細書及び図面。この刊行物が本願考案の実用新案登録出願前日本国内において頒布されたものであることは、原告の明らかに争わないところである。)によれば、第一引用例は、一つの取付端と一つの剥離端をもち、取付端が裏打ちシートに固定される一つの感圧テープフアスナーと、裏打ちシートとテープフアスナーの剥離端との間に挟まれた剥離ライナーと、剥離ライナーと裏打ちシートの間に挟まれた一つの感圧接着剤等からなり、汚れたおむつを処分するため、おむつが巻き上げられ又は折り畳まれた後固定するためのビルト・イン処分用フアスナーを設けたつかいすておむつに関する発明であるが、そこには感圧テープフアスナーと剥離テープの対応関係とその間の附着態様に関し、「剥離端は、剥離ライナーから除去可能で、剥離端をおむつコーナー域に接着することによりおむつのフアスナーとしてのその使用を許容する。」(第一頁第六四行ないし第六九行)、「剥離ライナー19は、裏打ちシート12とテープ16の剥離端18との間に挟まれている。図1及び2の具体例においては、剥離ライナー19は感圧接着剤域20により貼り付けられ、それによつて裏打ちシート12にくつつけられている(接着剤域20は、単に図解のために図面中では誇張された厚さとなつている。)。感圧接着剤域20は、テープ16が意図したやり方で使用されるとき、剥離ライナー19をその位置に保持するに十分な接着強度を有する。接着剤域20は最初剥離ライナー19にくつつけられ、それから裏打ちシート12に移されてもよいし、又は裏打ちシート12に剥離ライナー19を貼り付ける前に裏打ちシートに適用されてもよい。剥離ライナー19のコーア11に関して外側の表面21はシリコン処理されていて、それゆえその面はテープフアスナー16の剥離端18の重ね合せ面に対しては、たといあるとしても、最小の粘着性の付着しか有しない。剥離ライナー19は、ポリエチレン又は紙又はその適当な同等物であり得る。」(第二頁第八一行ないし第一〇五行)との記載及び「図6と7の実施例においては、感圧テープフアスナー16は、図2に関して図解し、かつ、述べたものと非常に類似したやり方で固定される。前の具体例におけるように、剥離ライナー26は裏打ちシート12に対し、それが裏打ちシート12と感圧テープフアスナー16の剥離端18との間に挟まれるように直接固定される。しかしながら、剥離ライナー26と接着剤27(図8)の材料はそれぞれ、ライナー26が後に汚れたおむつから剥がれるときに、接着剤27がライナー26にくつつくように選ばれる。」(第三頁第四七行ないし第六一行)との記載のあることが認められるところ、右記載内容に徴すると、第一引用例の感圧テープフアスナー16の剥離端18の接着面が剥離ライナー19又は26の剥離面に対面し、剥離ライナー19又は26の他面に接着剤20又は27が付いていて、この面がおむつの裏打ちシート12と対面し、かつ、感圧テープフアスナー16の剥離端18と剥離ライナー19又は26とは、共に一面に接着剤が付いているものであるから、感圧テープフアスナーと剥離ライナーとは、本件審決が認定判断するように二層の感圧接着テープとみることができ、更に、感圧テープフアスナーと剥離ライナーとは、おむつの使用前には重畳しているが、使用時には感圧テープフアスナーが剥離ライナーから剥離除去され得るように剥離可能に附着していることは明らかである。原告は、第一引用例の右認定に係る記載のうち、「剥離ライナー19のコーア11に関して外側の表面21はシリコン処理されていて、それゆえその面はテープフアスナー16の剥離端18の重ね合せ面に対しては、たといあるとしても、最小の粘着性の附着しか有しない。」との記載は、両者を実質上附着させないようにするということであり、また、第一引用例の剥離ライナーは、本願考案の第二感圧テープ片のように第一感圧テープ片と一体になつてテープフアスナーを構成するものではないから、この点の本件審決の認定は誤りである旨主張するが、原告が指摘する右の記載は、前認定したところによると、剥離ライナーの表面に通常の剥離処理を施すことによつて感圧テープフアスナーと剥離ライナーとの間の粘着力を僅少にすることをいつているものと解するのが合理的であり、第一引用例には、これ以上に両者を附着させないようにすべき技術上の要請があるものとは到底認めることができない。なお、前掲甲第三号証によると、第一引用例には、実施例の説明として、剥離ライナー19に孔22が設けられ、この孔を介してテープフアスナーの剥離端18が裏打ちシート12に接着される例が図面とともに示されているが、この記載も、同号証の記載全体に照らすと、叙上認定を妨げるものとみることはできない。そして、前認定の本願考案の構成に前掲甲第二号証の考案の詳細な説明の項中の「第二感圧テープ片9と第一感圧テープ片の端部6との接着は親和力を十分とせず、第二感圧テープ片9が剥離可能になるように処理しておくことが必要である。こゝで親和力が十分ではないという事は第二感圧テープ片9とおむつ1の裏面3との固着力の方が第一感圧テープ片4の端部6と第二感圧テープ片9との固着力より強い事を意味する。」(第四頁第一四行ないし第五頁第一行)旨の記載を総合すれば、本願考案の第一感圧テープ片4の他端6の接着面と第二感圧テープ片9の剥離面との前認定の固着力と、おむつの裏面と第二感圧テープ片9との固着力の関係についての構成は、上記認定の第一引用例のおむつの裏打ちシートと剥離ライナーとの固着力と、感圧テープフアスナーと剥離ライナーとの固着力との関係と技術的思想として実質的に異なるものではないとみるのが相当である。なお、第一引用例の剥離ライナーは、本願考案における第二感圧テープ片のようにおむつ使用時に第一感圧テープ片と一体となつてテープフアスナーとして使われるものではない(このことは、被告も認めるところである。)が、この点については、本件審決は本願考案と第一引用例との相違点として指摘し、この相違点については第二引用例の記載を引用し判断しているところである。以上認定したところによると、本願考案における第一感圧テープ片4、該第一感圧テープ片の他端部6、その固着部8、第二感圧テープ片9、その接着剤11は、それぞれ第一引用例における感圧テープフアスナー16、その剥離端18、その接着剤、剥離ライナー26、接着剤27に相当し、かつ、第一引用例においても感圧テープフアスナーの剥離端に剥離ライナーが剥離可能に附着しており、原告の主張する剥離ライナーの使われ方の違いを考慮に入れても、構成上の右のような対応関係を否定することはできない。そうすると、第一引用例の記載内容についての本件審決の認定判断に誤りはなく、前認定したところに基づき、本願考案と第一引用例記載のものとを対比すると、両者の間には、本件審決認定のとおりの共通点及び相違点が存するものと認められるから、本件審決のこの点の認定判断にも原告主張のような誤りはなく、したがつて、これらの点の原告の主張はいずれも理由がない。
2 本願考案と第一引用例記載のものとの相違点についての認定判断の誤りについて
第二引用例に本件審決認定のとおりの記載内容があることは原告の認めるところ、右事実に成立に争いのない甲第四号証(昭四八―二五六三二号実用新案公報)を総合し、前認定の本願考案の構成と対比考量すると、第二引用例は、段ボールなどの厚紙又はこれに類似する適当な素材で構成される紙箱の開閉部の封かん構造に関する考案であり、従来、箱の蓋に直接テープを貼着する等の手段が用いられたが、開箱時に蓋が破れ再使用ができない等の欠陥があつたことから、この欠点の解消を考案の目的ないし課題としたものであるところ、第二引用例記載の考案は、本願考案の第一感圧テープ片に相当する主テープ1の上に、本願考案の第二感圧テープ片に相当する副テープ3を剥離可能に附着させ、使用前は副テープ3の接着面が離型材の表面に重なつて保持されているが、使用に当たつては副テープ3を離型面から取りはずして、蓋Aに貼り付けた主テープ1に対応する他方の蓋の被着面に取り付け、開箱と封かんが反復できるように、本願考案と同様、蓋Bの被着面と副テープ3との接着力を主テープ1と副テープ3との接着力より強くした構造のものを採用し、右の構造により、所期の目的を達成し、開箱、封かんを反復することができ、しかも蓋が損傷しない等の作用効果を奏し得たものであることが認められる。そして、紙製品の開閉若しくは封かん手段に接着テープが用いるときに一度圧着したテープを剥がして再び圧着し直すときに被着面を破損することなく、反復して使用することができるようにすることは、排尿の有無を確かめるときなど一度圧着したテープを剥がして再び圧着し直す必要があるつかいすておむつにおいても、同様に要請される事項というべく、しかも、前説示のとおり、第二引用例にこの点の技術的課題及び解決手段が開示されていること、並びに後記説示のとおりの本願考案の奏する作用効果を参酌すると、第一引用例記載のつかいすておむつにおける二層の接着テープの構成に第二引用例記載の主テープと副テープとの構成を採用し、本願考案の構成とすることは、極めて容易になし得ることと認められる。この点について、原告は本願考案と第二引用例記載のものとの物品ないし素材の違いや構造の違いを理由に、第二引用例からは本願考案の第一感圧テープ片と第二感圧テープ片による開閉反復可能な構成は示唆されるものではない旨主張するが、二層の接着テープの間を剥離可能にしその間で着脱を行うことによつて、繰り返し脱着しても被着面を破損したり、接着テープに被着面のけばが付いてテープの再固着を妨げたりするという欠点を解消しようとするものである点で、本願考案と第二引用例記載のものとは、技術的課題を同じくすることは前説示のとおりであるのみならず、接着テープフアスナーとしての技術的観点からみても、素材的に共通しているうえに、いずれのものにおいても封かん構造の対象物は、紙又はプラスチツク又は類似素材から製造されるもので、包装物品として類似し、共通性を有し、かつ、移動又は歪みに対応し得ることが求められるものであるから、両者の物品としての違いは、前認定を妨げになるものということができない。また、原告は、第二引用例記載の封かん構造は補強テープや保護テープを必須要件とする特殊な構成である旨主張するところ、前掲甲第四号証によれば、第二引用例記載のものにおいて、補強テープや保護テープが原告指摘のとおり用いられているけれども、補強テープは使用時に箱蓋の裏面に貼着し主テープの補助的役目をなすものであり、また、保護テープは表面に現れる接着剤を保護するものにすぎないものであり、第二引用例記載のものにおける前認定の主テープと副テープとの間で着脱を行うための附着態様とこれによる開閉を反復可能にする構成ないし技術的思想は、右補強テープ及び保護テープとは関係なく、十分に理解し得るものであるから、第二引用例記載のものにおいて補助テープや保護テープが用いられているからといつて、上記認定を左右するものではない。したがつて、この点の原告の主張は採用の限りでない。
3 本願考案の奏する顕著な作用効果を看過した誤りについて
本願考案の奏する作用効果は前認定のとおりであるが、右の作用効果は、第二引用例における主テープと副テープとの構成から当然予測し得るものであるから、第二引用例記載のものに比して格別顕著なものとはいい得ない。原告は、本願考案と第二引用例記載のものとは技術分野を異にするから、両者の作用効果を比較することが誤りである旨主張するが、両者は、前認定説示のとおり、封かん包装物品として共通したものであり、同一の技術的課題をもち、その共通する欠点を解決したものであるから、両者の作用効果を比較検討した本件審決には何ら誤りはない。また、原告は、本願考案の作用効果として容易に対応するおむつの裏面に取り付けられ、おむつを幼児にぴつたりとフイツトさせ、漏れを生じさせない、という効果を主張するが、本願考案の明細書(前掲甲第二号証、第六号証の二及び第一〇号証)の記載を検討するも、右の点について本願考案が第一引用例記載のつかいすておむつと比べ格別の作用効果を奏するものとは到底認めることができない。したがつて、本願考案の奏する作用効果は、第一引用例及び第二引用例記載のものから予測できる範囲にとどまるものといわざるを得ず、この点の原告の主張は採用するに由ない。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
一端部がつかいすておむつの裏面に固定され他端部はおむつの表面に折返し可能の方向に延びる第一感圧テープ片と、該第一感圧テープ片の上記他端部に剥離可能に附着し、上面に固着部を有する第二感圧テープ片とから構成されるテープフアスナーを有し、おむつの裏面と第二感圧テープ片との固着力を第一感圧テープ片と第二感圧テープ片との固着力より強くなし、且つ上記テープフアスナーをおむつ表面に折返した際第二感圧テープの上面固着部がおむつ表面に固着されず、使用時上記第一感圧テープ片と共に第二感圧テープ片がおむつ表面から剥離され、その上面固着部を介しておむつの対応する裏面に取付けられる様にしてなるつかいすておむつ。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
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別紙図面(二)
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別紙図面(三)
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